コインの評価における微妙な境界線
コインは鑑定会社に提出されると、細かく状態をチェックされ、その結果として評価(グレード)が割り当てられます。
この評価はコインの市場価値を大きく左右するため、コレクターや投資家にとって極めて重要な要素となります。
例えば「MS(Mint State=未使用)」と「AU(About Uncirculated=ほぼ未使用)」の境目は、ほんのわずかな差であっても価値に大きな影響を及ぼすことがあります。
今回はMSに届きそうで届かなかった「AU58」という部分にフォーカスを当ててお話しします。
AU58とは?
今回取り上げる「AU58(About Uncirculated 58)」は、シェルドン・スケールと呼ばれる国際的な基準で、未使用(Mint State)に限りなく近いグレードと位置づけられています。
About(ほぼ)+Uncirculated(未流通)という言葉通り、ほんのわずかな摩耗があるだけで、しかもその摩耗も最も凸部にわずかに確認できる程度です。
表面の光沢も90%以上残っており、光の加減によっては「MSと見間違えるほど美しい」と感じる方も少なくありません。
AU58とMS60〜62の逆転現象
ここで面白いのは、AU58のコインがMS60〜62よりも見た目が優れている場合がある、という点です。
MS60〜62のコインには、しばしば「キャビネット・フリクション」と呼ばれる軽微な擦れや接触痕が見られます。これは長期保管中にケース内や他のコインと触れた結果生じるものです。
そのため「グレード上(ラベル)はMSだが、見た目(実物)はAUではないか?」と感じることがあり、コレクターの間でも議論になることがあります。
逆もまた然りです。
覚えておきたいこと
もし「グレード上(ラベル)はMSだが、見た目(実物)はAUではないか?」と感じるようなコインと遭遇した時、できる限り本来のミントステート相当の価格で購入することは避けた方が良いです。
もちろん、基本的には鑑定会社による評価に一定の信頼を置いてよいかと思いますが、時にはこのような例外的な状態のコインが存在することも、心の片隅に留めておくべきでしょう。
そういった意味でも、実物を自分の目で見て判断することの重要性は、あらためて強調しておきたい点です。
特に大きな金額が動く場合には、ラベルだけに依存せず、可能な限り実物を自分の目で確認する姿勢も重要になります。
AU58というグレードは、「MSに届かなかった惜しい存在」であると同時に、「実際の見た目ではMS以上に輝くこともある」興味深い位置づけにあります。
取引においてはラベルを基準にするのが一般的であり、そこまで神経質になる必要はないかもしれません。
「ラベルより中身を見る」という視点は、やや玄人向けの見方とも言えるため、一般的な取引においては大きな問題になるケースは多くないかと思われます。
しかし、こうした知識を知っているかどうかで、いざというときの判断力には大きな差が生まれます。
コインは単なるグレードや数字ではなく、一枚一枚に状態の個性があります。
この微妙な境界線を理解することは、コイン収集や投資をより深く楽しむ第一歩となるでしょう。