「世界で最も美しい銀貨」と称されるゴシッククラウン。
1847年に発行されたこの一枚は、アンティークコインの世界で特別な輝きを放ち続けています。
なぜ、これほどまでに人々を惹きつけるのでしょうか。
本記事では、ゴシッククラウン銀貨について、そしてその魅力をご紹介いたします。
世界中のコレクターが憧れるゴシッククラウン銀貨。
皆さまもぜひ、その気品ある美しさをコレクションに加えてみてはいかがでしょうか。

ゴシッククラウンの基本情報
| コイン名称 | ゴシッククラウン銀貨(Gothic Crown) |
|---|---|
| 国 | イギリス |
| 統治者 | ヴィクトリア女王 |
| 発行年 | 1847年 / 1853年 |
| 額面 | 1クラウン |
| 発行枚数 | 8,000枚 / 460枚 |
| 品位 | 0.925 / 0.999 |
| 直径 | 38.6mm |
| 重さ | 28.3g |
ゴシックとは?
ゴシックとは、中世ヨーロッパで広まった「ゴシック様式」に由来しています。
この様式は、12世紀から16世紀にかけて花開き、壮麗で神秘的な美を建築や美術に吹き込みました。(例:ノートルダム大聖堂)
ノートルダム大聖堂;wikipedia参照
種類について
エッジ(縁)の違いによる分類
ゴシッククラウンにはいくつかのバリエーションが存在します。
まず、大別できる種類としては、エッジにレターがあるかどうかです。
エッジの種類は以下の3種類に分けられます。
- アンデシモ(レターバリエーション)
- セプティモ(レターバリエーション)
- プレーンエッジ(ノンレターバリエーション)
ゴシッククラウン銀貨は1847年と1853年に発行されており、それぞれ発行枚数は8,000枚と、460枚です。
ゴシッククラウンは、ヴィクトリア女王
の在位10周年を記念して作成されたコインです。
アンデシモ(UNDECIMO)は、1847年のゴシックグラン銀貨に刻まれているラテン語で、ヴィクトリア女王の治世11年目を意味します。
(ヴィクトリア女王は1837年に即位したため、治世11年目は1847年にあたります。)
一方で、セプティモ(SEPTIMO)は、7番目を意味するラテン語です。
しかし、1853年はヴィクトリア女王の治世17年目なので、「SEPTIMO(第7年)」という表記は実際の治世年と合っておりません。
諸説あるそうですが、この表記は刻印ミスや試作品として作られたためではないかと、みなされています。
1847年発行のアンデシモ(UNDECIMO)と1853年発行のセプティモ(SEPTIMO)は、コイン裏面にローマ数字でそれぞれの年数を表す文字がゴシック文字で刻まれています。
・アンデシモ:「1847 = MDCCCXLVII」
・セプティモ:「1853 = MDCCCLIII」

ローマ数字については以下に少し記載しているので、ご覧になってみてください。
一方で、プレーンエッジというタイプもあります。
プレーンエッジバリエーションは、他のバリエーションとは異なり、縁に浮き彫りの名文がなく、滑らかで平らなエッジが特徴的です。
文字がないタイプが存在することにより、レターバリエーションとノンレターバリエーションの独自性を際立たせています。
この緑の文字のあるなしは、意図的な製造上のバリエーションと考えられているそうです。
品位によっても異なる?
ゴシッククラウン銀貨の品位は、
0.925のスターリングシルバー以外にも、0.999の純銀タイプのものがあります。
こちらはごく少数のゴシッククラウンで、より高い純度の銀貨となっております。
「Pure Silver」、「Fine Silver」とラベルに明記されております。
銀の純度の違いが生じた理由は完全に明らかにはなっていないそうで、鋳造過程のミス、実験的に、あるいは特別な顧客向けなどの目的で、意図的に異なる銀を使用した可能性もあります。
いずれにせよ、0.999銀で作られたゴシッククラウン銀貨は非常に希少であり、コレクター間では非常に高い評価を受けております。
種類のまとめ
以上の内容を整理し、少し細くした形ですが、ゴシッククラウンは以下の種類に分類できます。
- 1847年:アンデシモエッジ
- 1847年:プレーンエッジ
- 1847年:プレーンエッジ:ピュアシルバー
- 1847年:セプティモエッジ:エラータイプ
- 1853年:セプティモエッジ
- 1853年:プレーンエッジ
- 1846年:試鋳貨
これまでご紹介したもの以外にも、1846年の試鋳貨や打刻の違いなど、さらに細かなバリエーションが存在しますが、概ねこの分類で整理できるかと思います。
多様なバリエーションが存在する点も、ゴシッククラウンをコレクションする大きな魅力の一つといえるでしょう。
デザインの魅力
表面

を戴き、左を向いて立っています。そのローブには、連合王国を構成する各国を象徴する花々が刺繍されています。イングランドとウェールズのバラ、スコットランドのアザミ、そしてアイルランドのシャムロックです。
」様式で刻まれており、「Victoria dei gratia britanniar. reg. f: d.」という文字が確認できます。裏面

が描かれ、騎士道精神を讃える意匠となっています。そこには、ワイオンが抱いた“古典への敬意”と“新時代の芸術性”が、見事に融合しています。
ウィリアム・ワイオン

出典:wikipedia commons
ウィリアム・ワイオン(William Wyon, 1795–1851)は、19世紀イギリスの彫刻師であり、ロイヤル・ミント(英国造幣局)の首席彫刻師として活躍しました。
彼の代表作には、ジョージ4世やウィリアム4世の肖像、ヴィクトリア女王のヤングヘッド(Young Head)」の肖像、そして「ゴシッククラウン(1847年)」などがあります。
「ゴシッククラウン」は、ヴィクトリア朝時代のゴシック・リバイバル様式を反映し、彼の芸術的な頂点を示す作品とされています。
ワイオンの作品は、現在もコレクターや美術愛好家に高く評価されており、彼のデザインは19世紀のイギリスの芸術と文化を象徴するものとして、多くの人々に愛されています。
彼のブランドがゴシッククラウン銀貨の人気をさらに高いものにしているのは事実です。
まとめ
ゴシッククラウンが長く愛され続けている理由は、いくつかの要素が見事に融合しているからだと思います。
まず挙げられるのは、発行枚数が極めて少ないことによる希少性です。
さらに、年号やエッジの違いによって複数のバリエーションが存在し、コレクションの奥行きを感じさせてくれます。こうした細やかな違いを見つけ出す楽しみもまた、コイン収集の醍醐味といえるでしょう。
そして、芸術的価値の高さも見逃せません。本コインは、当時ヨーロッパで流行した「ゴシック・リバイバル」の芸術運動を反映しており、中世ゴシック様式への憧憬、そしてヴィクトリア朝時代の美意識が見事に凝縮されています。
そのデザインを手がけたのは、英国が誇る名彫刻師ウィリアム・ワイオン。彼の繊細で格調高い造形美が、ゴシッククラウンを単なる通貨ではなく、一つの芸術作品へと昇華させています。
さらに、この銀貨が発行されたのは大英帝国が最盛期を迎えたヴィクトリア女王の治世でした。女王は当時のイギリスにおいてまさに象徴的な存在であり、その肖像が刻まれたことも人気を高めた要因の一つです。
まさに「人が人を呼ぶ」ように、憧れが憧れを生み出し、その価値を高めてきたのがゴシッククラウンです。そうしていつしか、「世界で最も美しい銀貨」と称される地位を確立しました。
ただし、その人気の高さゆえに、近年では偽物も少なくありません。購入の際は、信頼できるディーラーやオークションハウスを利用することをおすすめいたします。
しかし、このような事態こそが、ゴシッククラウンの市場価値を支えている熱狂が存在するということでもあります。
アンティークコインを愛する方であれば、ぜひ一度は手にしていただきたい一枚です。
ゴシッククラウンは、芸術性・歴史的意義・投資的価値のすべてを兼ね備えた、まさに名品と呼ぶにふさわしい存在。
世界中のコレクターから今なお愛され、「憧れの一枚」として語り継がれる理由があります。
この一枚を手にするということは、単に資産を所有することではありません。
それは、歴史と芸術、そしてロマンを自らの手に迎え入れる体験なのです。


