価値を守る箱か、自由を奪う檻か?

価値を守る箱か、自由を奪う檻か?

アンティークコインをスラブケースに入れるかどうかという問題は、長い間大きな論争となっております。

 

特に古代コインコレクターにとっては、その問題は顕著です。

 

弊社では、鑑定済みのアンティークコインを主に取り扱っておりますが、それはいくつか理由があります。

 

今回はスラブケースへの封入をテーマにブログを書こうと思います。

 

 

スラブケースに入れる理由


冒頭でも書かせて頂いたように、弊社では鑑定済みのスラブケースに入ったアンティークコインを取り扱っております。 

 

主に以下の理由から、スラブに封入する選択を取っております。

  • 価値尺度の一定化
  • 真贋性の証明
  • 管理のしやすさ(携帯性と保存性)

 

価値尺度の一定化


 

アンティークコインの鑑定は、主にアメリカの第三者鑑定機関である「NGC」や「PCGS」によって行われます。

 

これらの機関は「シェルドングレード」という基準をもとに作成されたNumeric Gradeを採用しております。(グレードの詳細についてはこちらのブログにも記載しておりますので、よろしければご覧になってみてください)

 

この基準を採用して鑑定されたアンティークコインが今日では数多く存在するため、もちろん多少の価格の幅はありますが、このグレードを基準に価格が決定されるようになります。

 

この価値尺度の一定化のおかげで、より市場の安定化を図ることができるようになりました。

 

また、コインの見分けがつかずとも、この基準を参考にすればよいため、初心者でも参入しやすくなります。

 

※ただし、このグレードを決定するのも人であるため、完全に正しいものとは限りません。

 

 

真贋性の証明


アンティークコインを初めて購入される方が最も心配する点は、欲しいコインが偽物であるかもしれないということだと思われます。

 

コインは鑑定が完了すると、スラブケースに封入されますが、このスラブケースに封入されているという状態(正確には鑑定番号が付与され、封入されている状態)がアンティークコインが本物であるということの証明となります。

※真贋を担保するものではございません。

 

少なくともスラブケースに入っていれば、偽物であるというリスクを減らすことができますので、販売する側も、購入する側も安心してお取引することが可能になります。

 

NGCスラブケースの革新的な点は、コインのエッジ(縁)の大部分を斜めに見ることができる「エッジビューホルダー」です。

 

コインは4つの柔らかいプラスチックの突起で固定されており、縁に沿って鋳造の継ぎ目が見えると、偽物と判定されることが多いため、コレクターにとってもこの点は非常に重要な部分となります。

 

 

 

管理のしやすさ(携帯性&保存性)


アンティークコインは「ポケットに入る資産」と言われております。

 

価値がどれだけ高くとも、そのサイズはポケットに収まるほど小さく、非常にコンパクトです。

 

そのため、大きな保管スペースを必要とせず、重さも比較的軽いため、万が一の際に持ち運びが容易です。

 

かつて、ヨーロッパの貴族たちはアンティークコインを用いて資産防衛を図っていました。

 

その理由の一つに挙げられるのが、「携帯性」の高さです。

 

ヨーロッパは陸続きであり、常に他国の侵略の脅威にさらされていました。このような状態では、敵の攻撃によって資産が奪われたり、破壊されるリスクがつきまといます。

 

アンティークコインは非常に携帯性に優れており、危機的状況においても持ち出して逃げることが可能でした。この特性により、貴族たちは資産を守りながらその価値を保ち、さらには増やして繁栄を続けてきたのです。

 

 

このような「携帯性」という魅力は、現代においても活用することができます。

 

例えば、大地震や洪水、火災といった災害が発生した際でも、アンティークコインを持ち出すことで資産を守り抜くことが可能です。

 

日本ではこうしたリスクが現実的な課題であり、無視することはできません。

 

また、アンティークコインはスラブケースにパッキングされておりますので、スレや傷はつきません。

 

メンテナンスを施す必要もないため、基本的には放置で問題ないです。

 

 

一方で携帯性の高さははコインのデメリットでもあります。

 

というのも、簡単に携帯できるということは、簡単に盗まれるということです。

 

この点は、くれぐれもしっかりと自身で管理をしていく必要があると思われます。

 

 

スラブケースは自由を奪う牢獄


 

弊社では古代コインもスラブケースに入ったものをお取り扱いさせて頂いておりますが、このスラブに封入するということは、古代コインコレクターの間では大きな論争となっております。

 

古いコインコレクターの中には、このスラブケースをプラスチックの牢獄とみなしている方もおられます。

 

彼らは、スラブケースは古代コインを台無しにするものと考えており、ギリシャ人やローマ人が実際に取り扱ってきたものに触れるというロマンを体験したいのです。

 

一方で、若いコレクターの多くは専門家がグレードをつけたコインの方が安心でき、長期間の保存に適した素材で守ることを優先し、ポケットに入れて持ち運びしやすいということを好んでいます。

 

また、基本的にスラブケースラベルに記載されているグレードや希少性によって価格が決まってきますが、古代コインにおいては、必ずしも決められた価格があるというわけでもございません。

 

この点が古代コインの難しいところでもあり、一方で基準に縛られていない自由で面白い点でもあります。

 

スラブケース・尺度のことをJail牢獄)と呼ぶのはここに由来しているのです。

 

 

古代コインはどのように扱われてきた? 


古代コインの扱い方も時代とともに変わってきました。

 

その昔、コレクターは大半が富裕の貴族になるのですが、自作のキャビネットにコインを保存していたそうです。

 

キャビネットにはコイン用のトレイが備え付けられており、このトレイには柔らかいフェルトやヴェルベットが置かれて、ならべらております。

 

しかし、このように保管していると、繊維との摩擦によって生じる小さなスレや、擦り傷をコインの表面につけてしまうのです。(cabinet friction

 

19世紀になると、中流階級にも広がっていったコインは、紙の封筒で保存され、段ボール箱に入れて集められていたそうです。

 

この保存方法は問題が多く、古い紙や段ボールは、コインの表面に有害な化学物質を残す場合があり、特に湿気の多いところでは顕著になります。長期間の保存でも問題がない無酸性紙が作られたのは1950年代になってからのことでした。

 

今日では、大半のコインがプラスチックのフリップに入れられております。

 

 

PVC製(ポリ塩化ビニル)の柔らかく柔軟性のあるフリップは、コインの長期保管には向いておらず、安全ではないです。可塑剤が含まれており、コインに有害な残留物を残す可能性があります。

 

ポリエチレンテレフタラート性のフリップは化学的に安定した素材として使われております。(固くて、やや脆いですが)

 

そして、1972年にアメリカ貨幣協会に(ANA)よって設立された鑑定サービスで、1988年にコインをプラスチックホルダーに封入するサービスを開始し、今日では古代コインもスラブケースに入れられるようになってきました。

 

古代コインもスラブケースに多く入れられるようになってきておりますが、まだまだスラブケースに封入されていない状態で流通している古代コインは多いです。(特にヨーロッパの印象ですね)

 

古代コインの保管の仕方については、今後も論争は続き、より進歩していくと思われます。

 

弊社では古代コインもスラブケースに封入されたものを取り扱っておりますが、一方で2000年以上前に存在していたコインを自分の手で触れるというスリルは他では味わえない経験だと私も思います。

 

この点は好みの問題ですので、どちらがよいかは、コレクターの皆様の考え方次第かと思われます。

 


 

今回はスラブケースへの封入をテーマにブログを書かせていただきました。

 

スラブケースで保存するか、しないかはお好きな方法で保管するのが良いかと思われます。

 

以上、長くなってしまいましたが、ブログをお読み頂きありがとうございました。

 

 

冬が近づいてくると、ロシア帝国のコインを眺めたくなる季節ですね♪

 

日に日に寒さが増してまいりますが、どうぞお身体を大切にお過ごしくださいませ。

 

Coin Blessing 店主 山本

 

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